| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-219

ヤマトシロアリにおける個体間相互作用による兵隊分化を調節する因子の伝達

*渡邊 大,前川清人(富山大院・理工)

社会性昆虫に見られる行動多型を伴う表現型多型はカーストと呼ばれ,適切なカースト比の調節は社会性の維持に重要である。シロアリは巣の防衛を担う兵隊(ソルジャー)カーストを持ち,ソルジャーはワーカーの幼若ホルモン(JH)量が上昇することで生じる。巣内のソルジャー比は多くの種で低く,個体間相互作用による分化調節因子の授受が示唆されてきたが,これがワーカーとソルジャー間のどのような相互作用の結果起こるのかは不明である。ヤマトシロアリでは,ソルジャー存在下でワーカーにJHを投与すると,約9日経過後にプレソルジャー分化が起こるが,少なくとも5日後までにソルジャーの影響がワーカーに伝わり,ワーカーのJH量が低下することがわかっている。そこで本研究では,ソルジャーの効果の伝達をより詳細に明らかにするため,本種のJHを用いたプレソルジャーの分化誘導系を用いて以下の解析を行った。

まずJH投与及びソルジャー同居の有無によるソルジャー及びワーカーの行動を,JH投与前から投与後5日目までビデオ観察した(n=3,各200分)。その結果,ソルジャーの存在は,特にJH処理区においてワーカー間の接触行動を増加させた。次に有機溶媒によるソルジャーの頭部及び胸腹部の抽出物と体表の洗浄物を用意し,JHと共にワーカーへ投与してプレソルジャーの分化誘導率を調べた(n=5)。その結果,頭部抽出物と胸腹部抽出物を与えた実験区において,誘導率が減少する傾向があった。以上より,ソルジャー分化調節の候補因子の産生はソルジャー体内で起こり,ワーカー間の接触行動の増加によって集団内に拡散する可能性が示唆された。これにより,巨大な巣で圧倒的に個体数の少ないソルジャーの影響が,効率よくワーカーに伝達されるのではないかと考えられる。


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