| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-262

景観スケールにおける希少樹木種の生活史特性と森林管理シナリオとの関連性

*石田敏(東北大・生命), 正木隆, 田中浩(森林総研), 中静透(東北大)

人間による土地利用によって森林は様々な影響を受けている。日本の森林では薪炭林の利用、針葉樹林の植林、放牧地など様々な利用が為されてきたが、近年では放置され始めている。このような土地利用の変化に応じて森林内の種組成は刻々と変化している。ある地域における低頻度種の保全を考えるとき、どのような土地利用、管理シナリオがその種に影響を与えるかを考慮する必要がある。しかし景観全体の中での低頻度樹木種の動態を捉えるためには多くのデータが必要であり、さらに低頻度ゆえの観察数の少なさから、多くの樹木種動態の中での変化を捉えることは難しい。

そこで容易に得られたデータを用いて、景観内の土地利用の変化(土地利用変化マトリクス)と土地利用が変化した森林群集内での林冠木の種組成変化(林冠交代マトリクス)をそれぞれのマトリクスで表し、両者を組み合わせて景観全体での森林動態の予測を行った。また、林冠交代マトリクスにばらつきを持たせて1万回のシミュレーションを行い、その結果から景観内に林冠木が一本もない地域絶滅の確率も求めた。これらの景観全体の種組成と地域絶滅確率が3つの森林管理シナリオによってどのように変わってくるかを計算し、どのような森林利用がどんな種特性を持つ低頻度種の地域絶滅を回避させて、生物多様性の維持に貢献するかを考察した。

今研究では以前のマトリクスモデルの調査データに加えて、低頻度種を対象に捜索したデータを用いて樹木発見数の少なさによるばらつきを抑えた。森林管理シナリオでは「里山管理」「原生林保護」に加えて二次林を放置して保護林とする「自然回復」についても考えた。結果では里山管理シナリオによる現優占種の優占度増加、原生林保護シナリオによるL型樹木種の地域絶滅回避や自然回復シナリオによるベル型樹木種の地域絶滅回避が見られ、樹木種特性と森林を管理するシナリオとの関連性が確認できた。


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