| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-284

インフルエンザウイルスの抗原タイプの流行予測

*水野晃子(総研大),中林潤(総研大),佐々木顕(総研大)

インフルエンザウイルスの感染性は、その膜タンパク質ヘマグルチニンの抗原決定座位のアミノ酸配列によって決定される。インフルエンザは、アミノ酸の急速な置換によって宿主免疫応答から逃れるため、毎年異なる流行株が現れることとなり、その流行予測は社会的要求が非常に高い。しかし、ヘマグルチニンの抗原決定座位数は50〜100と非常に多く、インフルエンザウイルスの進化予測は非常に難しいとされている。

近年、高次元の量を低次元に簡略化する多次元尺度法を適用することで、高次元となる配列間比較を低次元化した上で、アミノ酸配列間の距離を比較し、変異の予測性を高める研究が行われている。我々が行った研究によれば、この多次元尺度法による過去40年間のA香港型ヘマグルチニンHA1領域の配列進化の軌道を解析したところ、ヘマグルチニンの系統樹上で主要なクレードが分岐する時期に、多次元尺度法による進化軌道の方向が大きく変わるということが分かっている。この軌道方向変化の時期にインフルエンザウイルスの進化に何が起こっているのだろうか?また、軌道方向変化とクレードの分岐は、何故対応しているのだろうか?

今回の研究では、我々は、この大きな軌道方向の変化とクレードの分岐がヘマグルチニンの立体構造の大きな変化に対応しているのではないかと考えた。ヘマグルチニンの立体構造に対応して変異可能なアミノ酸部位に制限があると考えると、軌道方向が大きく変化することやクレードの分岐が説明出来る可能性がある。そこで、ヘマグルチニンアミノ酸配列の進化を考慮した個体ベースモデルを作成し、低次元尺度法を用いた進化軌道と系統樹について比較検討を行った。もしこの立体構造の変化がクレードの分岐と進化軌道の方向の変化に対応しているとするならば、実際のインフルエンザウイルスの流行株予測に対して、その重要性を示す研究となると期待している。


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