| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-289

アジアイトトンボにおける交尾器の形態と神経刺激による精子置換

*田島裕介,渡辺 守(筑波大・院・生命環境)

アジアイトトンボの雌には交尾嚢と受精嚢という2つの精子貯蔵器官があり、これらは細長い受精嚢管によってつながっている。一方、雄は、副生殖器の先端に精子を掻き出すためと思われる鉤状の付属器をもっているが、その長さは受精嚢管より短い。したがって、副生殖器を交尾嚢に挿入してその中の精子を除去することはできても、受精嚢内の精子を直接除去することはできない。しかし、雄は交尾中、副生殖器の先端部で、雌の内部生殖器に存在する感覚子を刺激して、精子を置換していることが明らかになった。この感覚子は産卵板の表面に存在し、産卵時、通過する卵の刺激を受け取ると、受精嚢の筋肉を収縮させる役割をもっている。これにより、貯蔵されていた精子は放出され、受精が行なわれるのである。交尾中には、雄の副生殖器の先端部が産卵板付近に挿入されることになるため、雄の腹部の運動が感覚子に卵の通過と同様の刺激を与え、受精嚢内の精子の放出を促していると考えられてきた。したがって、副生殖器の先端部の幅が広く、感覚子に強い刺激を与えることのできる雄ほど、交尾中に受精嚢内の精子を多く放出させる可能性が高いといえる。雄の副生殖器の幅は体サイズ(後翅長)と正の相関があったので、大きな雄は精子置換能力の高い雄と考えられる。もし、個体群中の雄の精子置換能力が高ければ、それに対抗して雌の内部生殖器の感覚子の数に変化が見られるかもしれない。そこで、平均体サイズの異なる地域個体群を用いて、雌を解剖して感覚子の数を比較したところ、大きな雄のいる個体群の雌は、小さな雄のいる個体群の雌よりも感覚子の数が少なかった。このことから、雄の精子置換能力の高低と、雌の感覚子の数の多少との間に共進化が起こっている可能性が考えられた。


日本生態学会