| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-311

宿主—媒介昆虫間の移動に伴うトリパノソーマ原虫Trypanosoma bruceiの表現型分化における分子制御機構

宮崎智史*,櫻井達也,片倉賢(北大・獣)

哺乳類の血液に寄生する原虫種Trypanosoma bruceiは、ツェツェバエGlossina spp.によってのみ媒介される.その過程でT. bruceiは大きな環境の変化に曝されるが,血流型から昆虫型へと表現型を分化させることでそれに適応する.この現象は古くから注目され,温度等の環境要因が昆虫型分化を引き起こすと考えられてきた.しかしこれではツェツェバエによってのみ媒介されるという媒介昆虫の特異性を説明することができない.近年,G. fuscipesの中腸に由来するプロテアーゼGpl(Glossina proteolytic lectin)が, T. bruceiの昆虫型分化をin vitroで促進すると報告された.そこで,このプロテアーゼの塩基配列における種間変異が昆虫型分化の制御能及び媒介昆虫の特異性に影響するという仮説がたてられる.本研究ではこの仮説を検証するため,以下の解析を行った.

Gplの相同遺伝子であるGsp1Glossina serine protease 1)をG. morsitansから,一方,それに近縁な吸血性種のサシバエ(Stomoxys calcitrans)からSspxStomoxys serine protease x)を新たに単離した.Sspxは既知のSsp遺伝子群と比べ,Gsp1との予想アミノ酸配列の類似度が最も高いことから,SspxGplの相同遺伝子と考えられた.続いてGsp1Sspxについてin silicoでの特性解析を行い,酵素活性部位におけるアミノ酸配列が保存されていることを示した.現在,大腸菌発現系を用いてそれらの組換えタンパク質を作製し,in vitroにおけるT. brucei昆虫型分化の誘導能の差異を調べている.それらの結果をもとに,T. bruceiの昆虫型分化の制御機構や媒介昆虫の特異性におけるプロテアーゼの役割を考察する.


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