| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-312

岩手を中心としたニホンイヌワシの遺伝的多様性

*村山美穂,早野あづさ,阿部秀明,坂井寛子(京大・野生動物),前田琢(岩手県環保研センター)

【目的】ニホンイヌワシ(Aquila chrysaetos japonica)は、推定生息数約650個体(環境省報告、2004年)で、絶滅の危機に瀕している。岩手県内では、全国で最も多い32ペアの生息が確認されているが、近年(2006~10年)の繁殖成功率は平均12%と低い状態にあり、巣の補修や餌場の確保など、個体群の存続に向けた様々な取り組みが行われている。本研究では、DNA多型マーカーを用いて遺伝的多様性を解析した。

【方法】繁殖後の巣内より採取した羽根、卵殻、ペレット、または剥製の羽根や爪から、カラム法(DNeasy Blood and Tissue Kit, QIAGEN)を用いてDNAを抽出した。岩手県由来の47試料、東北から関東の6県由来の11試料、および動物園生まれの16個体、計74試料を用いて、近縁種で報告されているマイクロサテライトマーカー、ミトコンドリアのD-loop 領域およびCOI領域を解析した。

【結果と考察】マイクロサテライト12マーカーで、3から7のアレルが見いだされ、平均へテロ接合率は0.492であった。ミトコンドリアのD-loop 領域では3ハプロタイプが、COI領域では2ハプロタイプが見いだされた。羽根だけでなくペレットや糞といった比較的採取しやすい試料からも型判定が可能であった。また、燻蒸保存された剥製の爪部分からも解析でき、過去の標本を利用して遺伝的多様性の推移の調査が可能なことがわかった。遺伝子型にもとづいて系統樹を作成し、親子兄弟など血縁の判明している動物園試料の解析結果との比較から、野生試料の血縁関係の推定を試みた。

今後はさらに試料数をふやして、国内個体群全体の遺伝的多様性を把握し、保全に活用したいと考えている。


日本生態学会