| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


シンポジウム S02-1

趣旨説明:鳥取砂丘における植生保全の歴史的経過

永松 大(鳥取大・地域)

海浜植生は草原の成立しにくい日本列島において,草本植生が維持されるユニークな生態基盤である。しかし開発や農地化などの人為改変や砂浜の侵食などにより海浜植生は各地で希少化してきている。このシンポジウムでは,海浜植生の生態的特徴と危機の現状について紹介し,砂丘植生の生態的な意義や保全の必要性について考えていく。まずはその端緒として,大規模な海浜植生が残る鳥取砂丘の歴史的経過,かかえる問題点について紹介する。

鳥取砂丘は広義には東西16km,南北2.4kmに広がるとされるが,現在残っている砂丘地は,その一部約150haのみである。砂丘は現在,国の天然記念物に指定され,山陰海岸国立公園の特別保護地区として保護されて多くの観光客を受け入れている。しかし,全国各地の海岸砂丘と同様に,鳥取砂丘でも戦後,盛んにクロマツが植林され,一時は砂丘に全面的に植林する計画であった。その後,地域を代表する砂丘を失うのは惜しいとの声がだんだんと大きくなり,地元では緑化と保存を両立させる道を選び,今日に至っている。飛砂防止のため砂丘周囲には植林が続けられ,砂丘の「草原化」が進行しため1970年代と80年代の2度にわたり,砂防林の一部が伐採され,砂丘にもどされた。現在は砂丘景観を維持するため,除草作業が続けられている。除草は徐々に,市民によるボランティア活動に移行しつつある。今後は,単なる景観維持を越えて,植生保全管理のためのより科学的なデータの集積と,市民活動へのフィードバックを作り出すことが必要とされている。


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