| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


シンポジウム S02-4

都市近郊の利用形態を中心とした海岸植生の危機の現状

松島 肇(北大・院・農)

国土の4分の1が海面下に位置するオランダでは、海岸線の保全が国土保全上重要な役割を担っているが、海岸植生に覆われた海岸砂丘が北海からの高潮を防ぐ重要な自然堤防として機能していることに着目し、古くから海岸砂丘の保全に取り組んできた。そこでは砂浜と背後の海岸砂丘を自然状態のまま一体的に保全し、海岸砂丘への立ち入りは厳しく制限されている。つまり、海岸砂丘の機能を生態系サービスと考え、その保全につとめてきた。しかし、日本では「海岸」とは通常、波の影響を受ける砂浜部分を指し、この部分が自然状態であれば自然海岸と見なされ、後背地(海岸陸域)の状態は全く考慮されない。特に第二次世界大戦後、集中的に行なわれた海岸林の整備やその後のリゾート開発により、いわゆる海岸草原はそのほとんどが失われてしまった。近年では北海道石狩海岸のようにオフロード車の乗入れによる海岸植生の破壊が顕著に見られる海岸もある。日本人の風景観に「自然海岸=白砂青松(はくしゃせいしょう)」という刷り込みが強く存在し、砂浜にマツ林があれば自然海岸であるというある種の誤解が相対的に海岸砂丘や海岸植生の保全意義を低くしてきた。そもそも環境省の定義による海岸草原は植生自然度が最も高い10とされ、積極的に保全を図るべき自然環境であるはずである。残念ながら、現状の自然公園行政においても海岸草原の保全に対しては積極的ではなく、自然公園区域内の特別地域に置いても車両の乗入れによる植生破壊が見られる地域がある。生物多様性の重要性が認められている現在、砂浜から海岸砂丘を経て海岸林へと環境勾配に応じて変化する砂浜海岸の空間的多様性とその重要性を再度確認し、残された真の自然海岸の保全に向けた努力をすることが次世代に対する我々の責務であろう。


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