| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


シンポジウム S06-4

トキの野生復帰の現状

永田 尚志(新潟大・超域)

トキの野生復帰の試みは、2008年9月25日に佐渡島で10羽(♂5,♀5)をハードリリース法で放鳥することで始まった。2009年秋には、仮設放鳥ケージの入り口を開放するソフトリリース法で19羽(♂8、♀11)が、2010年11月には順化ケージから13羽(♂8,♀5)が放鳥された。コウノトリでは給餌が行われているが、トキの野生復帰では放鳥した個体への給餌は一切、行なわれていない。放鳥されたトキは、主に水田、および、その周辺の環境で採餌し、ドジョウ、ミミズ、カエル、昆虫類を食べていた。放鳥後1年間の生残率は、1次放鳥個体で7羽、2次放鳥で13羽と約70%弱であった。

放鳥されたトキのうち、1次放鳥では6個体(♂5♀1)に、2次放鳥では9個体(♂1♀8)ににGPS衛星発信器が装着されていて、1次放鳥も5個体と2次放鳥の6個体から3時間ごとの位置情報が得られている。1次放鳥と2次放鳥において佐渡島内における放鳥直後の個体の移動パターンには差が認められ、1次放鳥個体は放鳥直後(1ヶ月以内)に佐渡島内で大きく分散したのに対して、2次放鳥個体の大多数は放鳥場所の近くに留まり、すぐに群れを形成し、繁殖期の始まる3月に移動を開始した。Nested ANOVAにより1次放鳥個体と2次放鳥個体の移動パターンの違いは、性差と放鳥方法の違いによるところが大きいと考えられた。放鳥1年目にはすべての雌が島外に分散したためつがいが形成されなかったが、2年目に、島に定着していた1次放鳥雄と2次放鳥雌によるつがいが形成され、合計5つがいが産卵したが、繁殖は成功していない。シンポジウムでは、コウノトリと比較しながら、2011年春先の状況も踏まえて、トキの野生復帰の現状について考察していく予定である。


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