| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


シンポジウム S10-4

成長のメカニズムからサケ科魚類の生活史多型と資源管理を考える

清水宗敬(北大・水産)

サケ科のサクラマスは淡水で生まれ、一年以上河川で過ごした後に海に下る。しかし、全ての個体が海水適応能を獲得して海に下る訳ではなく、川に残って一年早く成熟する個体も出現する(生活史多型)。北海道ではサクラマス幼魚が海に下るか河川に残留するかは成長の良し悪しによるとされており、進化・生態学的な視点から盛んに研究されてきた。一方、成長がどのように海水適応能の獲得や成熟の開始に関与するのかといった生理学的メカニズムには不明な点が多い。

魚類を含む脊椎動物の成長には、成長ホルモン(GH)とインスリン様成長因子−I(IGF-I)が非常に重要である。特にIGF-Iは、GHの成長促進作用を仲介するとともに、サケでは海水適応や成熟にも関与しており、生活史多型出現を理解する上で鍵となる分子と考えられる。しかし、生活史分岐に果たすIGF-Iの役割を調べるには、研究ツールの整備と生理学的知見の集積が必要となる。演者らは、サケIGF-Iの測定系の確立をはじめ、成長のメカニズムに関する研究を行ってきた。そして、IGF-Iは個体の成長率と良い正の相関があることを見出した。この知見はメカニズムの解明だけでなく、成長の指標として水産資源学の分野での応用が期待できる。

海に下ったサケの大部分は一年目の冬に減耗するため、その時期の生残が資源量を大きく左右する。これまでの生態学的な研究から、サケ幼魚が生残するか否かは、沿岸域での成長の良し悪し(成長率)に左右されると考えられている。現在、北米のギンザケを対象に、血中IGF-I量を成長率の指標に用いて幼魚の生残ひいては回帰量を推定する試みが行われている。血中IGF-I量と回帰率には正の相関があることが明らかになりつつあり、生理学と資源生態学を結ぶアプローチとして紹介したい。


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