| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T02-1

キナバル山における山地林の組成と構造

相場慎一郎(鹿児島大・理)

キナバル山はボルネオ北部(北緯6度)に位置し、山頂の標高は4095m、ニューギニアとヒマラヤの間の東南アジア熱帯で一番高い山である。キナバル山は花崗岩・堆積岩・蛇紋岩・第四紀堆積物など多様な地質が存在する点でもユニークである。これら標高・地質条件の多様性を反映し、キナバル山周辺の面積約1200km2の地域は 約5000種の維管束植物を産し、世界でもっとも植物多様性が高い地域のひとつとなっている。

キナバル山の標高1200m以下には、ボルネオ低地に一般的な混交フタバガキ林が成立するが、それ以上にはフタバガキ科をほとんどまたは全く欠く熱帯山地林が成立する。キナバル山地林の構造・相観は、日本の照葉樹林に似ており、「郷愁」を感じる。しかし、調査区の樹木組成を調べてみると、優占するのはフトモモ科とマキ科の樹種であり、「郷愁」は勘違いであったことに気づく。とりわけ、フトモモ科フトモモ属(Syzygium)の種多様性が際立つ。ブナ科とクスノキ科も種数は多いが、優占度ではフトモモ科とマキ科に及ばない。フトモモ属はキナバル山の低地林にも多くの種が出現し、フタバガキ科からなる巨大高木層の下の林冠層の優占属のひとつとなっている。なお、フトモモ属はボルネオに200種以上があり、ボルネオ産樹木では最大の属である。

東南アジアの山地林は日本の照葉樹林と同様、ブナ科とクスノキ科によって特徴づけられると言われてきた。アジア大陸部の山地林、ジャワ島やスマトラ島の火山ではそのとおりかもしれない。しかし、キナバルの山地林を含めてマレー半島・ボルネオの非火山性山地では、フトモモ科とマキ科が優占することのほうが一般的な傾向である可能性がある。


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