| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T04-4

水産資源管理におけるデータ収集の重要性とモデル解析の役割~マグロ管理の意思決定を例に~

*黒田啓行, 高橋紀夫, 境磨・藤岡紘, 伊藤智幸(水産総合研究センター 遠洋水産研究所)

水産資源を持続的に利用するために、多くの漁業は漁獲量の制限などにより管理されている。漁獲許容量(TAC)は、現在の資源量などから算出されるが、データや知見の不足により、資源量を正確に推定することは難しい場合が多く、さらに将来の環境変動などを考慮することも容易でない。このような「不確実性」は、TACの合意形成をはかる上で大きな障害となっている。

ミナミマグロは南半球高緯度に広く分布する回遊魚で、日本など5ヶ国が加盟するみなみまぐろ保存委員会(CCSBT)により管理されている。しかし、1990年代後半、加盟国間で資源状態に関する見解が異なり、TACに正式合意できない状況が続いた。この状況を打開するため、2002年にCCSBTは科学委員会を中心として「管理方式」の開発を始めた。管理方式とは、「利用可能なデータからTACを決めるためのルール」である。データの信頼性や資源動態に関する不確実性に対し頑健なルールを事前に設定できれば理想的である。しかし、頑健性を海上で実際に検証することは不可能に近いため、コンピューター上に資源動態を再現し、その「仮想現実モデル」のもとで、よりよい管理方式を選択するという作業が2011年8月の最終化を目指して行われている。

実際に管理方式の開発に携わっている者として、開発過程での苦労話も交えながら、各種データの収集、解析、さらにそれらの情報に基づく仮想現実モデルや管理方式の開発がどのようになされているか解説する。特に、これらの開発作業および管理そのものの全体デザインの重要性について言及する。また様々な利害関係者を抱えるマグロ管理における科学者の役割についても触れたい。


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