| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T15-2

環境経済学から見た生物多様性: ミクロ経済学によるアプローチ

野原克仁(東北大・生命科学)

経済学は、限られた資源の最適配分を研究する学問であり、生物多様性も社会経済の中において最適配分を考慮する必要がある資源であると言える。近年の生物資源の過剰利用が生物多様性の劣化を招いていることは明白であり、生物多様性が提供する多くのサービスの価値を顧みない開発や発展が、いかにアンバランスな生物資源の配分を行っているかの証左となっている。持続可能な発展の実現が、人類にとって喫緊の課題であることが認識されてきた今日において、理想と現実の対照は際立つばかりである。

ではなぜ、自然資源の過剰利用が起こるのか?経済学において財は私的財、クラブ財、コモンプール財、公共財の4つに分類される。コモンプール財とは競合的で排除不可能な財、公共財とは競合もせず排除もできない財のことであり、一般的に自然資源はこれらの財に分類される。つまり、誰も排除できないため、競合した場合は資源が枯渇するまで利用され、競合しない場合は質が劣化するまで利用されてしまうことから、過剰利用が起こる。

それでは、生物資源が枯渇しないよう、最適な配分を実現するためにはどうすればよいか?それには、生物多様性の価値を経済的に評価することで価格をつけ、市場メカニズムに取り入れることが考えられる。

では生物多様性の価値をどのように経済的に評価すればよいのか?経済学では、人々が生活上直面する様々な選択行動は、全て個人の満足を最大にすることを暗黙裡に仮定している。つまり、人々の実際の行動結果から得られるデータを用いた顕示選好法が、信頼性の高い手法と言える。しかし、これらのデータが入手できない場合も多々あり、その場合は仮想的な質問を行いデータを補完する。これを表明選好法と呼ぶ。

以上から、環境経済学という立場から生物多様性を見た場合、諸手法が生物多様性の評価にどのように貢献できるのかを、近年の最新の動向を踏まえて紹介する。


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