| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T23-4

整備年代の異なる畦畔における植物種の出現パターン

渡邉 修(信州大・農)

水田畦畔は,耕作地の境界として重要な役割を持つことに加え,湛水機能,土壌流出防止,農村景観形成など様々な役割を持つ。畦畔一つの面積は小さいが,全国には約20万haあり,一級河川の堤防面積に匹敵する広がりを持つことに加え,定期的な刈り払い管理が継続され,草原性の草本が生息する空間として農地生態系の中でも貴重な存在である。畦畔は昭和30年代まで肥料や家畜飼料生産,ダイズの副次的生産場所として積極的に利用されてきたが,現在では水田耕作の中で単に管理すべき場として維持されている。これまで伝統的畦畔と基盤整備畦畔の植生の比較が行われ,伝統的畦畔に貴重な野草が多数存在していることが各地で報告されている。基盤整備は終戦直後から全国各地で進められ,水稲作の効率化が進められてきたが,同時に多くの畦畔植生も失われてきた。畦畔は基盤整備後,裸地状態から二次遷移が進行するが,基盤整備地における畦畔植生の変化を調べた例は少ない。畦畔における普通種が各地域でどのように出現するかを明らかにするため,ここでは,中国地方を横断する形でモニタリングサイトを設置し,典型的な中山間地における畦畔を整備年代ごとに分け,各年代の優占種を比較した。整備直後の畦畔はスギナとヨモギが優占し,徐々にチガヤ,シバ,ススキ主体の植生に変化する傾向がみられた。モニタリングサイトではイネ科多年草の出現が顕著であった。ノアザミ,ワレモコウ,ウツボグサ,ゲンノショウコなどの野草が整備後10年以上経過した畦畔で徐々に増加した。帰化種としてオオアレチノギク,ヒメジョオン,セイタカアワダチソウ,メリケンカルカヤなどが頻出し,特にメリケンカルカヤは最近5年間で大幅に増加していた。メリケンカルカヤは,裸地状態の畦畔だけでなく,既存植生の中に侵入する能力が高く,畦畔の普通種回復に深刻な影響を及ぼすと推察された。


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