| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) A2-14 (Oral presentation)

里山におけるササ刈りによる植物群落の変化

古川拓也(近畿大・農),櫻谷保之(近畿大・農)

近畿大学奈良キャンパスは奈良市郊外の矢田丘陵に位置し、里山林、草地、植林地、ため池、放棄水田、湿地などの多様な環境から成り立つ。この環境に、奈良県版レッドリスト種に選定されている動植物が生息しており、生物多様性に富んでいる。しかしその一方で、利用や管理のされなくなった棚田やため池、里山林などが散在し、それらの場所では特定の種の優占による生物多様性の低下や、外来種の侵入が起きている。またそれにより多様な在来種の存続が危惧されつつある。

ササ類は地上に稈を出し、群落を形成し、日光を他の植物と比べ、比較的有利に利用するイネ科植物である。ササ類が密に存在するところでは、主に林床性の植物相での種数・種多様度が減少しており、ササ類が林床性の草本類に与える影響が大きいということが知られている。当キャンパス内にもササ類として、中部地方以西に広く分布している普通種であるネザサ(Pleioblastus chino)が分布、育成している。ネザサが育成している地域の林床には、奈良県版レッドリストにて絶滅危惧種に選定されているフデリンドウやシュンランが確認されている。いずれも里山に普通にみられた植物であるが、選定理由は里山の荒廃によって自生地が減少している。

本研究では、里山の管理をネザサの刈り取りとし、二次的遷移を促す。それによってネザサ群落へ影響を与えることで、埋土種子の発芽促進、他地域からの植物の侵入などによる植生の変化、種間関係、また刈り取り後に促される出筍補充性による稈の生長などの種内関係を明らかにすることを目的とする。

刈り取りによる二次的遷移により、新たに見られるようになった植物は普通種・外来種であり、現在までに奈良県版レッドリスト種に指定されている植物の発芽や侵入は確認されていない。発芽の時期が調査期間外であるため、今後の調査で確認ができれば、ササ群落の管理によってレッドリスト種の保全が有用であるといえるだろう。


日本生態学会