| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) C1-01 (Oral presentation)

木曽山脈固有種ヒメウスユキソウの個体群動態

*尾関雅章,大塚孝一,浜田崇(長野県環境保全研)

ヒメウスユキソウ( コマウスユキソウ)Leontopodium shinanenseは,高山帯の風衝草原や岩角地に生育するキク科ウスユキソウ属の多年草で,本州中部山岳の木曽山脈の固有種である.同種の個体群動態の特性と新規加入個体のセーフサイト(定着適地)について検討した.

2005年に典型的かつ人為的撹乱の少ないヒメウスユキソウの生育地に計4m2の調査区を設けた.同区内に生育する全200個体を標識し,2011年まで毎年の生残状況,株のサイズ(株の長径・短径),開花の有無,花茎数,生育位置を記録した.

調査区内のヒメウスユキソウの個体数は,2006年以降209~221個体で調査開始時を上回ったが(調査漏れ個体の加入を含む),開花個体数は調査開始時の88個体から2011年に36個体と減少した.6年間の観察で,当年生実生は1個体のみ確認された.当年生実生、未開花(株面積指標(株の長径×短径)に基づく5クラスに区分),開花の生育段階を用いて推移行列モデルを作成し,個体群成長率(λ)を求めたところ,λ=0.984で個体群が減少する傾向を示した.また,同モデルから得られた各生育段階の生存率は,当年生実生と最小サイズをのぞき,97%以上と高かった.未開花の小型個体は,植被内よりも岩礫の縁や岩礫と岩礫に挟まれた空間に分布する傾向が認められた.

これらのことから,ヒメウスユキソウの集団の維持更新特性として,実生による新規加入は少ないが,いったん定着した個体の生存率が高く集団が維持されていること,また岩礫の縁や岩礫間の比較的安定した立地が新規加入個体のセーフサイトとなっている可能性が示唆された.


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