| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) C1-08 (Oral presentation)

ブナ実生の生残と林冠構成種やササ稈密度がつくり出す林床の光環境との関係

西本 孝,岡山県自然保護センター

ブナ林ではブナ実生が豊作の翌年に多く発生する。林床にササの密生する場合には夏までに大部分が枯死する。一方でササの下でも長期間生き残る場合がある。実生が長期間生存できる光環境を知るために、林床の光環境をつくり出す林冠構成種やササ稈密度について調べた。

調査区は岡山県北部の若杉原生林と毛無山に残存するブナ林内の、いずれも標高1000m付近に設定した。若杉原生林では林冠構成種やブナ実生の位置とササ稈密度や光環境(日平均積算光量子量)との関係を、毛無山では閉鎖林冠下やギャップでのブナ実生の生長量と光環境との関係について考察した。

若杉原生林では、当年生実生はブナ樹幹下でササ稈密度の低い場所で多数発生したが、時間の経過とともに生残する個体が減少した。長期間生存する実生はササ稈密度がある程度ある場所の方が多かった。ササ稈密度はブナ樹幹下では低く、ミズメやホオノキの樹幹下では高かった。光環境はササ稈密度が高くなるにつれて悪化したが、高密度でも低密度の場所と同程度の明るさの場所では長期間生残した個体が見られた。

毛無山では、密生するササの下で発生した当年生実生はすべてが秋までに枯死し、生き残ったのは登山道沿いのササが定期的に刈り取られる場所で芽生えたものであった。光環境は閉鎖林冠下、ギャップとも5月上旬が最も明るく、展葉が完了した5月末以降は暗くなり、閉鎖林冠下ではごくわずかな光が届く程度であった。生長量を春季と夏季とに区別して同時期の光環境との関係を見ると、閉鎖林冠下の場合、生長量は春季には必ずしも多くなく、夏季には光環境と正の相関関係が認められた。ブナ実生の葉緑素量(SPAD値)は、夏期の方が春期よりも有意に高くなっていた。

これらの結果から、ブナ実生は春季の光で葉緑素量を増加させ、夏季の弱い光で生長しており、ササの下でも一定の光環境が整っていれば、長期間生き続けることができると考えられた。


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