| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) C2-15 (Oral presentation)

親の過ちが子の食物を決める:チョウの食草決定と繁殖干渉

*大秦正揚(京都学園大学),大崎直太(京大・農・昆虫生態)

生物が現在利用している生息場所は他と比べ相対的に高い適応度を実現できる場所である。チョウを含め多くの植食性昆虫の利用している食草は幼虫期生存率が相対的に高い植物であると考えられてきたが、あてはまらないことが多い。一方、Kuno(1992)はチョウの食草利用の様式が成虫期の繁殖過程で生じる干渉型競争により説明しうることを理論的に予測した。今回我々は過去に研究されたエゾスジグロシロチョウとスジグロシロチョウの幼虫期の生存率を見直した。その結果、両種幼虫の生存率ともエゾスジグロシロチョウの利用するハタザオ属植物上でのほうがスジグロシロチョウの利用するタネツケバナ属植物上よりも高いことがわかった。そこで、現在両種が利用している食草は繁殖時の干渉型競争にスジグロシロチョウが負けた結果を反映しているという仮説を立て、両種共存下での交尾に至らない求愛行動観察および産卵数比較を行った。その結果、エゾスジグロシロチョウ雄は両種の雌に頻繁に求愛し、自種よりも他種の雌により多く求愛した。一方、スジグロシロチョウ雄は主に自種雌に比較的低頻度で求愛した。また、エゾスジグロシロチョウ雄の求愛時間は相手雌種にかかわらずスジグロシロチョウ雄よりも長かった。そして、両種共存下でのスジグロシロチョウ雌の産卵数は自種だけがいる場合に比べて半減したのに対し、エゾスジグロシロチョウ雌の産卵数は両種共存下でのほうが自種だけがいる場合よりも増加していた。したがって、スジグロシロチョウは幼虫期生存率が低い食草であってもエゾスジグロシロチョウと食草を変えるほうが高い適応度が期待でき、それゆえ両種の食草が異なると考えられた。つまり、エゾスジグロシロチョウ雄が対象雌の種を誤って認識することにより、スジグロシロチョウは幼虫期の生存率が比較的低い食草に産卵していることになる。


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