| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) D1-07 (Oral presentation)

葉におけるパイプモデル ―葉身と葉脈の発生から構造まで―

*種子田春彦(東京大・理)

植物の地上部では、茎の木部面積とその先についている葉の面積の間に正の比例関係が成立する。この関係には、単位あたりの葉面積を支えるのに必要な量の茎を一本のパイプに例え、それよりも基部側にある茎はこのパイプの集合体であるとする概念的な説明が加えられており、パイプモデルと呼ばれている。この法則は、広く植物一般に成り立つことが知られている(Shinozaki et al. 1964)。

本研究では、タバコ(Nicotiana tabacum L. ‘Petit Havana. SR1’)の主脈と側脈において、葉脈木部と葉身に関してパイプモデルが成立するのかを確かめた。主脈と側脈の木部は、道管が放射方向にならんだ列が複数、扇状に配置されている構造を持つ。これらの木部の形態と、葉脈が水を供給する面積(以下、流域面積と呼ぶ)との関係を測定した。その結果、主脈と側脈にある道管の直径と数、木部面積、ハーゲン・ポアズイユの法則から計算された葉脈の通導度は、流域面積と正の関係を持つことを確認した。しかし、これらの関係は、主脈と側脈では異なっていた。さらに、主脈と側脈の発生過程を観察したところ、道管の数、直径ともに発生を続ける期間は同じであったのに対して、道管の数、直径の増加速度が流域面積の拡大速度と強い比例関係にあった。こうした発生学的な関係から主脈と側脈でもパイプモデルの関係が維持されていることが示唆された。

こうした葉面積と葉脈の木部におけるパイプモデル様の関係に基づいて、葉身上に伸びる葉脈の水輸送経路を再現する数理モデルを作製した。この数理モデルは、葉脈密度や葉身サイズの異なる葉に対して、葉脈を流れる水の流量と構成コストの関係を計算することができる。講演では、決まった葉身の形態に対する最適な葉面積と葉脈の木部の関係や、逆に、葉面積と葉脈の木部の関係に対する最適な葉身の形態について予測し、タバコで観察された形態と比較した結果についても報告する。


日本生態学会