| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) F1-11 (Oral presentation)

琵琶湖南湖のユスリカ相の現状

*井上栄壮,西野麻知子(琵琶湖環境科研セ)

琵琶湖では、1994年の大渇水で観測史上最低水位を記録して以降、南湖で沈水植物(水草)が大量に繁茂するようになった。現在、南湖面積の8~9割で水草が繁茂し、船舶の航行障害、湖岸に打ち寄せられた流れ藻の悪臭発生や景観悪化、湖水の停滞による局所的なアオコ発生などが問題となっている。こうした状況の中、南湖のユスリカ相については、これまで演者らは2006年以降に主に湖辺域で38種を記録している。本研究では、南湖湖内におけるユスリカ類等の分布現況を明らかにすることを目的として2010年に調査を実施した。

定量採集した底泥および定性採集した水草から、ユスリカ科合計11種108個体、トビケラ目合計1種41個体が羽化した。底泥からは、ウスグロヒメエリユスリカが最も多く羽化し、次いでオトヒメトビケラ属の1種、ハマダラハモンユスリカ、ヒゲユスリカ族の1種の順であった。ウスグロヒメエリユスリカ、オトヒメトビケラ属の1種、ヒゲユスリカ族の1種は水草からも多く羽化し、その他の多くの種も水草から羽化したことから、南湖のユスリカの多くの種は本来水草に付着していると考えられた。底泥に生息すると考えられたのはハマダラハモンユスリカ、オオユスリカ、スギヤマヒラアシユスリカのみであったが、後2種の羽化数は少なかった。

湖底の環境条件については、溶存酸素飽和度は、2010年6月から8月までの間、一部の地点で30%を下回る程度まで低下し、最低は唐崎沖6月の13%であった。また、底泥の強熱減量は各月とも平均9%程度であり、1987年当時より増加した。

南湖の底泥は、底泥に生息する種のユスリカ幼虫の食物となる植物プランクトン由来の新生沈殿物が水草繁茂によって減少し、代わって増加した水草残渣はユスリカの食物になりにくいと考えられる。また、湖流の停滞による湖底の貧酸素化も、湖底のユスリカ相が貧弱になった一因と考えられる。


日本生態学会