| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) H1-04 (Oral presentation)

不耕起乾田直播水田における植物種多様性の保全機能の評価

*伊藤浩二,中村浩二(金沢大・環日本海域研究セ)

*伊藤浩二、中村浩二(金沢大・環日本海域研究セ)

近年、北陸の水稲農家に対し不耕起V溝直播栽培の導入が進んでいる。従来の苗移植栽培と比較して水利や耕起様式が大きく異なることから、導入地域の水田雑草群落の種組成や多様性に影響すると想定される。そこで収穫期前の2011年9月~10月にかけて、石川県珠洲市の沖積平野に位置する同一地区の直播栽培8圃場および苗移植栽培2圃場において植生調査を行い、TWINSPANおよびINSPANを通じて作型による植物種多様性の保全機能の差異を明らかにした。

その結果、直播栽培と苗移植栽培間での1m方形区あたりの平均種数は順に10.2種、10.3種とほぼ同等であったが、種組成に明確な差異が認められた。直播栽培ではIndicator Value順にキカシグサ、コナギ、アオウキクサ、タマガヤツリ、シャジクモ、ミゾハコベが指標種として抽出された(p<0.05, FDR補正)。その他、希少種のミズオオバコ、フラスコモ属sp、マルバノサワトウガラシ、キクモ、サワトウガラシが一部圃場に出現した。これらは従来湿田に生育する種であり、継続的な湛水(6月中旬~10月中旬)が直播栽培水田での生育を可能にしていると推測された。一方、苗移植栽培にはコハタケゴケ、トキンソウ、ヤナギタデ、イヌビエ、ケイヌビエ、タネツケバナ、オモダカ、イチョウウキゴケ、タカサブロウ等が指標種として抽出された。

中干しが普及した水田が多勢の中、直播水田は一部の湿田依存的な植物の生育場所として機能しているといえる。ただし直播栽培では入水開始までの約2ヶ月間土壌が乾燥状態で管理されるため耐乾性が弱い種の生育が難しく、また入水前に除草剤が使用されるためそれ以降でも生活史が完結可能な種でないと存続が難しい。地域レベルでの種多様性保全のためには、移植栽培や山間地を含む多様な水田で耕作が継続される必要がある。


日本生態学会