| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) J1-01 (Oral presentation)

農地の景観構造が水田のクモ類群集に与える影響

*馬場友希, 大澤剛士, 田中幸一(農環研)

捕食性生物による農業害虫の密度抑制は生物多様性によって供される重要な生態系サービスである。水田内の生物の多くは圃場内で生活史を完結せず、主に周辺環境から移入するため、この捕食者の機能の利活用を図る上で、農法や圃場管理のみならず、周辺景観が捕食性生物に与える影響を理解する必要がある。そこで、本研究は水田内の普遍的な捕食者である造網性クモ類に注目し、農地景観が水田内のクモ類の個体数に与える影響を明らかにした。

栃木県・茨城県31箇所の慣行水田にて、掬い取り法によりクモ類を採集した。GISを用いて、各調査地点を中心とする半径250mから2000mまでの異なるサイズの円形バッファーを発生させ、そこに含まれる景観要素を抽出し、各空間範囲における非農耕地面積と非農耕地の環境異質性(多様度指数)を算出した。クモの個体数を目的変数、景観要因とその他の交絡変数を説明変数とする統計モデルを基に、赤池情報量規準(AIC)に基づく総当りのモデル選択を行うことで、景観構造がクモの個体数に与える影響とその空間スケールを検討した。

水田内で採集された主要なクモはアシナガグモ類、ドヨウオニグモ、ナガコガネグモであった。解析の結果、これらのクモ類の個体数は景観要因から影響を受けること、その影響はクモの種類によって異なることが明らかとなった。すなわち、アシナガグモ類は周囲の農地面積が増えるほど個体数が増加するのに対し、ドヨウオニグモなどは非農耕地面積が多いほど個体数が増加する傾向がみられた。これはアシナガグモ類が水田等の湿地環境を好むのに対し、ドヨウオニグモなどは周囲の草地を好むという生息環境の違いが関連すると推測された。またアシナガグモ類の種間において、農地から受ける影響の強さに違いが見られたが、これは種ごとの湿地環境に対する依存度の違いを反映している可能性がある。これらの可能性を検討するため、各種の生息環境調査も行ったので、その結果も併せて報告する。


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