| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) J1-09 (Oral presentation)

繁殖後回遊中キタゾウアザラシの採餌行動

*安達大輝(総研大), Patrick Robinson(カリフォルニア大・サンタクルズ), 高橋晃周(総研大, 極地研), Chandra Goetsch, Sarah Peterson, Daniel Costa(カリフォルニア大・サンタクルズ), 内藤靖彦(極地研)

肺呼吸である海棲哺乳類は採餌深度まで潜水し、そして酸素を消費しきる前に水面に戻ってくる必要がある。潜水行動は生理的に制約されており(e.g. 酸素量)、潜水中の酸素消費速度は遊泳行動に大きく左右される。その生理的制約の中でどのように遊泳行動を調整しているかは海棲哺乳類の採餌戦略を考える上で重要である。しかしながら、これまでは自然環境下の採餌のタイミングと遊泳行動を同時に記録し、それら双方のデータを用い採餌戦略を明らかにすることは難しかった。そこで本研究では、カリフォルニア沿岸で繁殖するキタゾウアザラシ雌の下顎と背中に小型加速度記録計を装着することで、2か月半に及ぶ北太平洋回遊中のアザラシの採餌のタイミングと遊泳速度の両データを2個体から取得し、解析を行った。アザラシは回遊中に平均4262回の潜水を連続して行い、そのほとんどの潜水で採餌を行っていた。採餌深度は昼間に深く(約650 m)、夜間で浅い(約450 m)という日周パターンが見られた。この日周パターンはアザラシが日周鉛直移動を行う中深層性生物に合わせて採餌深度を昼夜で変化させていることを示唆している。また、採餌深度と浮上中の遊泳速度が負の相関を示したことから、アザラシは浅い深度で採餌をする時ほど速く遊泳するということが明らかになった。餌生物が浅い深度に移動する夜間に速く遊泳することは、潜水回数を増加、すなわち採餌の機会を増加させるだろう。これらの結果はアザラシが遊泳コストの上昇と引き換えに採餌機会を増加させるという採餌戦略を取っていることを示唆している。


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