| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) J1-12 (Oral presentation)

安定同位体分析を用いたフィリアルカニバリズムの検出

*曽我部篤,福田温史,小路淳 (広島大・院・生物圏),濵岡秀樹,柴田淳也,大森浩二(愛媛大・CMES)

親が自身の子供(卵)を食べる 「フィリアルカニバリズム」は、雄が卵保護をおこなう魚類では一般的な現象である。これまでフィリアルカニバリズムの検出には、保護卵数の時間的変化、胃内容物分析、卵の放射性同位体標識などが用いられてきたが、これらの方法では検出のために緻密な行動観察や実験操作が必要なため、野外での適用が困難であり、また実際に吸収された栄養量の推定はできなかった。雄が腹部または尾部にある育児嚢で卵保護をおこなうヨウジウオ科魚類で、保護卵の栄養が育児嚢を介して雄親に吸収される、一風変わったフィリアルカニバリズムが近年報告された。本研究ではヨウジウオ科魚類の一種ヨウジウオ(Syngnathus schlegeli)を対象に、窒素安定同位体分析を用いたフィリアルカニバリズムの検出の有効性を検証した。予測のとおり、直近の繁殖期の食性を反映する肝臓のδ15Nは雌よりも雄のほうが高かったのに対して、非繁殖期を含む長期の食性を反映する筋肉のδ15Nには雌雄で差がなかった。この結果は繁殖期中の雄が雌よりも高い栄養段階を占めることを示しており、雄親による保護卵の栄養吸収がその原因であると考えられた。また、卵と餌のδ15Nから雄の両栄養源に対する相対依存度を算出し、2個体群(大槌湾と瀬戸内海)間で比較したところ、雄のフィリアルカニバリズム頻度には地域変異があることが示唆された。本手法を用いることでフィリアルカニバリズムによる栄養吸収を簡易に検出できるため、大規模野外採取試料や長期歴代保存試料を利用した、フィリアルカニバリズム頻度の時空間変異研究への応用が期待される。


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