| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) K1-09 (Oral presentation)

福井県三方湖周辺水域におけるフナの遺伝的個体群構造

*武島弘彦(東大・大気海洋研),松崎慎一郎(国環研),高田未来美(東大・大気海洋研),児玉晃治(福井県・水試),前田英章(福井県・海浜自然セ),西田 睦(東大・大気海洋研)

フナ (Carassius auratus 種群) は,日本列島に広く分布する一次性純淡水魚である.先に報告したように,ミトコンドリア DNA (mtDNA) 分析の結果から,ラムサール条約登録湿地である福井県三方湖,ならびにその周辺水域には,地域固有の小系統の存在が示唆された.そこで本研究では,見出された地域固有系統の効果的な保全を目指し,倍数性ならびにマイクロサテライト DNA 分析を加えることにより,当該地域におけるフナの遺伝的個体群構造のより詳細な実態把握を試みた.

2009 年 7 月から 2010 年 7 月にかけて三方湖周辺水系にて採集され,先に mtDNA分析がおこなわれたフナの稚魚ならびに成魚,333 個体を試料とした.これらの個体の倍数性をフローサイトメトリーにより判定し,マイクロサテライト DNA 分析を行った.

倍数性の判定結果は,三方湖の成魚では分析個体の 86%が三倍体であったのに対して,三方湖に隣接する水月湖の成魚では三倍体は 20%,フナが産卵場所とする水田に遡上する個体では 3%しかいなかった.先の mtDNA 分析の結果では,三方湖のフナ成魚では 35%が三方湖周辺水域固有ハプロタイプを有する一方で,水月湖のフナ成魚では 86%が,水田遡上個体では 88%が三方湖周辺水域固有ハプロタイプであった.以上のことから,三方湖とその周辺水域の間で異数倍数体ならびに固有ハプロタイプの出現頻度が顕著に異なるという興味深い実態が明らかとなった.本発表では,マイクロサテライト DNA 分析の結果も加えて,三方湖周辺水域におけるフナの遺伝的個体群構造の実態を報告する.


日本生態学会