| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) L1-01 (Oral presentation)

安定同位体比分析により明らかにしたニホンザルの食性の群れ内変異について

*大井徹(森林総合研究所),清野紘典・濱崎伸一郎(株式会社野生動物管理事務所),川本芳(京都大学霊長類研究所)

ニホンザルの体毛の炭素、窒素安定同位体比から群れ内における食性の個体差を調べた。動物の体組織の安定同位体比は、その動物が摂食した食物の安定同位体比を反映するので、動物の体組織の安定同位体比を分析すれば、その動物の食物を推定できる。また、体毛の長軸にそった安定同位対比の変化は、体毛が成長する期間に摂食した食物の安定同位対比を時系列的に反映することが明らかになっている。私たちは約40頭からなるニホンザルの群れの個体の内、28頭の個体の背部の体毛を採取し、それを毛先から根元にかけて5mmのセグメントに切り分け、それぞれのセグメントの安定同位体比を質量分析計で計測した。また、これら安定同位体比分析に供した個体を含む39頭のマイクロサテライトDNAのフラグメント解析行った上で、Relatedness5.0.8で個体同士の血縁関係の遠近を評価した。その結果、各個体の体毛のセグメントの安定同位体比は部分によって大きく異なり、食性が季節変化をすることがわかった。また、そのような食性の季節変化の仕方は個体間でも異なった。さらに、オスの体毛の安定同位対比の分散はメスのものよりも大きいこと、血縁度と安定同位体比の類似性が相関することがわかった。このような安定同位体比に反映される食性の個体差の原因は、ニホンザルの群れは母系であり、メスは必ず血縁関係にあり、血縁関係の近いものは近接して摂食するという群れ内での個体配置の空間構造と関係している可能性が考えられる。この他、採食をめぐる個体間競争、個体の成長段階の違いによる食物のハンドリング能力、嗜好性の違いなども個体差をもたらしている原因であると考えられ、さらに、分析を進める必要がある。


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