| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) L1-02 (Oral presentation)

ベイジアンシミュレーションを用いた遺伝的多様性の回復過程の推定

村瀬香(東京農工大・農)

生物集団の遺伝的多様性は、ある要因で増加し別の要因で低下する。多くの場合、遺伝的多様性を増加させる要因と減少させる要因が同時に働いていると予想される。この状態は、プラスとマイナスが引き合う「綱引き」ゲームに似ている。両者の力が拮抗している場合は、プラスにもマイナスにも振れない。この場合、プラスとマイナスの力がともにゼロなのか、ともに同等の力が働いているのか区別出来ない。一方、どちらかの力がより強い場合でも、もう一方の存在によって、力量を過少評価してしまうなどの問題が生ずる。したがって、ある時点の遺伝的多様性を示すなんらかの数値は、「綱引きの途中結果」を示しているもので、肝心のゲーム内容はブラックボックスにしていると言える。

これまでブラックボックスであった一つの要素が独立して推定出来れば、多くの研究分野に貢献出来る。例えば、希少種の保全を考えた場合、遺伝的多様性に関わる数値が同じ数値を示していても、その生物集団が持つ遺伝的多様性が低下してしまう「危うさ」は異なる。なぜなら、その数値を生み出している各要素の種類と力の量が集団間で異なるからである。その他、ウイルス病への最適な投薬計画の立案、農業害虫の最適な総合防除の立案など、多様な分野に貢献する。

こういった背景から、遺伝的多様性の要素を独立して取り出し、その要素による遺伝的多様性の変動過程を計算するためのパラメータを決定するプログラムを作成した。さらに別の集団からの移入の効果などの特殊な履歴も推定できるようにした。発表では、害虫管理や野生動物の保護管理などいくつかの実例を用いて紹介する。


日本生態学会