| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) M2-16 (Oral presentation)

衛星発信機を用いたトド妊娠雌の北上期における行動

*高橋菜里(北大院環),服部薫(北水研),後藤陽子,和田昭彦(稚内水試),中野渡拓也,大島慶一郎(北大低温研),三谷曜子,宮下和士(北大FSC)

トドは冬季に北海道周辺へ索餌回遊し,5月に出産,育仔のためオホーツク海を北上し,繁殖場へ向かう.北海道北部のオホーツク海沿岸にある猿払では,毎年4,5月に定置網に混獲される.しかし,北海道周辺でのトドの海洋における移動経路,行動様式はほとんど知られていない.本研究では,猿払沖に来遊したトド妊娠雌に衛星発信機を装着し,回遊経路と経路上の海洋環境,潜水行動を解析することにより,本種の北上期前後での海域の利用状況,索餌様式の変化を調べた.

2011年5月に猿払沖定置網において混獲されたトド妊娠雌(245kg)に発信機SRDL(SMRU社製)を装着し,個体の位置情報,潜水深度,水温,塩分濃度のデータを得た.追跡期間は2011年5月19日から7月17日の計60日間である.

本個体の追跡期間は,①猿払沖とサハリン南部のモネロン島を往復する「索餌回遊期」,②サハリン東部を北上しオホーツク海北部のイオニー島に上陸するまでの「北上期」,③7日間のイオニ―島連続上陸中に出産したと考えられ,その後に島と周辺海域を往復する「育仔期」に分けられた.各期間における潜水行動は,①では3~6時(日本時間)の明け方と19~21時の夜間に,猿払沖では50m以浅,モネロン島では100m程度のそれぞれ海底付近まで潜水すること,②では,10数mとごく浅く,移動速度の速い潜水を昼夜行っていること,③では水深100m以上の海域で,50m程度の潜水を18~1時の日没~夜間に多く行っていたことが分かった.

以上の結果から,妊娠中の索餌回遊期から育仔期にかけて潜水行動を変化させることが明らかとなった.索餌回遊期には猿払沖でイカナゴ等を,育仔期にはイオニー島周辺でニシン,スケトウダラ等を採餌していることが報告されており,餌にあわせて潜水行動を変化させていると考えられる.


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