| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-036J (Poster presentation)

アカマツ天然集団の球果形質変異と核SSRに基づく遺伝変異の関係

*岩泉正和(森林総研林育セ関西),大谷雅人,那須仁弥,平岡宏一,宮本尚子(森林総研林育セ),高橋誠(森林総研林育セ九州)

地域性に配慮した樹木集団の保全を検討するためには,適応形質の地理的変異を把握するとともに,中立進化の影響等についても考慮しながら,局地適応の実態を評価していくことが重要である。アカマツは我が国の主要針葉樹の一つであるが,国内分布域全体にわたる繁殖形質変異の既往研究では,東北日本の集団ほど球果サイズが大きく,種子の充実率が高いことが分かっている。本研究では,上記のようなアカマツの球果形質の地理的変異と,中立的遺伝マーカーである核SSRに基づく遺伝変異の関係について解析した。

青森県東北町から宮崎県霧島山麓に至るアカマツ28集団,計628個体から得られた球果長径,鱗片数,充実種子率,充実種子1粒重等のデータを球果形質変異の指標とした。また,球果採取集団を含む62集団,計1,883個体から得られた8 SSR遺伝子座の遺伝子型データを用いて,集団の遺伝的多様性を示す統計量の算出やSTRUCTURE解析による個体のクラスタリングを行い,遺伝変異の指標とした。

球果長径や充実種子率は,クラスター数を3とした際の,西南日本で優占するクラスターの推定由来確率が高い集団ほど有意に小さく,東北日本で優占するクラスターの推定由来確率が高い集団ほど大きかった。また,allelic richnessの高い集団ほど充実種子1粒重が有意に小さかった。

このことから,アカマツの球果形質変異と中立的遺伝変異の間には少なからず相関が見られ,局地適応あるいは非遺伝的な可塑的応答とともに遺伝的浮動等が影響している可能性が考えられる。今後は,適応的な遺伝子の探索や産地試験による同一環境下での形質評価等が重要と考えられる。


日本生態学会