| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-111J (Poster presentation)

ランドスケープ構造が小水域への水生昆虫の移入と食物網形成に与える影響

*今井淳一(東大・農),角谷拓(国環研),平山亜希子(福井県自然環境課),松村俊幸(福井県自然保護センター),鷲谷いづみ(東大・農)

農業を中心とした人間活動により形成された里地里山ランドスケープにおいては、比較的限られた空間範囲の中に多様な土地利用形態が存在し、水田をハビタットとする種のみならず、複数タイプの環境を必要とする種の生息も可能な複合生態系が存在する。里地里山において土地利用のモザイク性の高さが里地里山特有の生物の分布をよく説明することは、先行研究により、福井県で広域的に実施された市民参加型調査で得られた水辺の生物分布データを用いて検証された。

本研究では、景観スケールで土地利用のモザイク性や農地の比率が異なる里地里山地域に複数のコンテナ型ビオトープ池を設置し、移入・定着する水生昆虫を特に上位捕食者の出現の有無に注目して調べることで、周囲の土地利用のモザイク性を含むランドスケープ構造が実際に種の移入ポテンシャルに影響を与えるか否かを検証することを目的とした。

2009年7月、福井県および県立高志高校との協力により県内の市街地から里地里山地域にかけての計24地点にビオトープ池が設置された。6ヶ月後に水生昆虫調査を実施し、上位捕食者の出現の有無とビオトープ池の周囲の水田率および土地利用のモザイク性指標との関係を、複数の空間スケールで解析した。さらに、高次捕食者の安定同位体比を測定しランドスケープ構造と食物網連鎖長との関係を解析した。

結果、出現する高次捕食者はトンボ類の幼虫が多くを占めており、それらの出現の有無は土地利用のモザイク性指標と正に相関していた。さらに、安定同位体比分析から、形成された食物網の連鎖長は水田率と正に相関することが示唆された。これらの結果は、里地里山における土地利用のモザイク性はマルチハビタットユーザー種の出現ポテンシャルを高めるという先行研究の結果を支持するものである。


日本生態学会