| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-307J (Poster presentation)

ヒヌマイトトンボのミチゲーションプロジェクト.2.幼虫の個体群動態.

*阿藤正樹(三重県県土整備部)・東 敬義(三重県立図書館)・渡辺 守(筑波大・院・生命環境)・岩田周子(筑波大・院・環境)

一般に、汽水域に生息する蜻蛉目昆虫は、卵や幼虫に塩分耐性があるといわれている。ヒヌマイトトンボの幼虫調査は、羽化前である5月の連休直後に行なってきた。この時期は、幼虫越冬や卵越冬した同所的に生息している種の幼虫も発見が容易である。発見されたヨシ群落では、2010年までヒヌマイトトンボ以外の蜻蛉目幼虫は発見できていない。一方、人工のヨシ群落を創る予定の水田や放棄水田では、事前調査で多くの蜻蛉目成虫が確認された。特に、アオモンイトトンボとアジアイトトンボ、モートンイトトンボの幼虫は、本種と重複した生活要求をもち、重要な捕食者かつ競争者である。これら4種を様々な塩分条件下で飼育して比較すると、卵期や幼虫期に塩分耐性をもつのは、ヒヌマイトトンボとアオモンイトトンボであった。なお、同時に発見された不均翅亜目幼虫は塩分耐性がほとんど無かった。したがって、ヒヌマイトトンボにとって好適な生息地を創るには、水環境を汽水に保ち、ヨシを密生させて暗い光環境を創り出し、開放的な環境を好むアオモンイトトンボを排除する必要がある。建設初年度の2003年、人工的な生息地は、ヨシの成長が悪く、開放的だった。そのため、アオモンイトトンボ成虫の侵入が多く、2004年には多量の幼虫が発見されている。また、他の蜻蛉目成虫も多く飛来したようで、その年の幼虫群集は多様であった。その後、ヨシの生長に伴って群落は閉鎖的になり、2007年に採集した幼虫のほとんどはヒヌマイトトンボとなったので、ミチゲーションの目的は達せられたと考えられた。ところが、2008年以降、群落内にヨシの生長の悪い部分がパッチ状に生じたり、海水の取水不足等による塩分低下が部分的に生じ、他種の蜻蛉目昆虫が侵入した。これらの結果は、蜻蛉目のミチゲーションにおいて、幼虫期のモニタリング調査が生息環境の状況を詳細に評価できることを示している。


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