| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-309J (Poster presentation)

ヒヌマイトトンボのミチゲーションプロジェクト.4.生息地となるヨシ群落の生長.

*村岡一幸(三重県立松阪高校)・東 敬義(三重県立図書館)・渡辺 守(筑波大・院・生命環境)・森本正俊(茨城大・院・理)

ヒヌマイトトンボを発見した生息地は、密生したヨシの単一群落で、成虫の活動空間である群落下部(20㎝前後)の相対照度は10%前後と暗かった。これに隣接する水田に同等のヨシ群落を作り出すため、2003年1月、生息地の周囲に繁茂していたヨシの根茎を密植し、海から汲み上げた海水に淡水を混ぜて、人工的な汽水を作って流し込んでいる。移植した年は、地上部の桿密度だけは高かったが、発見された生息地と比べると、単位面積当たりの地上部現存量は少なく、群落としては開放的といえた。その後、ヨシ群落は年々生長し、2006年には、群落高も群落下部の光環境も既存生息地と大差なく、ヒヌマイトトンボにとって好適な環境が構築された。ヨシの桿の太さや高さと乾燥重量との間には相対成長関係があったので、関係式を求め、群落の高さ別分布図と密度別分布図を作成し、地図上で面積を測定しながら、群落全体の現存量を推定した。単位面積あたりの地上部現存量は、2003年は15㎏/㎡だったが、2007年には205㎏/㎡となり、発見された生息地と同等となった。また、リターバックによる葉や桿の1年当たりの分解率は、前者が約90%、後者が約50%であることがわかった。したがって、葉よりも桿が分解されにくく、堆積しやすいので、陸地化を防ぐため、毎秋、刈り取った桿を人工のヨシ群落から除去することにしている。地下部の根茎は、発見されたヨシ群落では、最深で90㎝まで達していたが、人工的なヨシ群落では、水田土壌として形成されていた粘土層のため、30㎝までしか達していなかった。この狭い層の中で密に絡み合っていることが、地上部をパッチ状に開放的にした原因かもしれない。根茎の伸張を助けるために、粘土層を壊すと、人工のヨシ群落から汽水が抜け、幼虫の生息場所としても不適になるので、今後のヨシ群落の維持・管理方法は、現在、検討中である。


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