| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-035J (Poster presentation)

東日本大震災津波による海浜植生の質的変化-岩手県を事例として

*島田直明,昆野紘士,須田山紘希(岩手県大),早坂大亮(環境研),川西基博(鹿児島大),内田泰三(九産大),五箇公一(環境研)

2011年3月11日の東日本大震災で発生した津波において,東北地方では壊滅的な被害を受けた。ここでは津波による海浜生態系の生態影響および回復メカニズムの解明に向けて、北東北の海浜を対象に、海浜植生の質的変化についてモニタリングした結果を報告する。

調査地点は,岩手県北部から青森県南部にかけて,津波被害の程度の異なる以下の4つの海浜を選定した。大須賀海岸(八戸市),夏井川河口(久慈市),十府ヶ浦(野田村),明戸海岸(田野畑村)。これらの海浜では2003年8月に調査された植生調査資料(早坂 未発表)があり,津波被害前後を比較することに適していた。

植生調査は2003年調査と同じ地点において,植物社会学的植生調査手法に基づき,被災後の2011年8・9月に行われた。

調査区あたりの種数には津波前後での変化は見られなかったが,津波によるインパクト(護岸や消波ブロック等への影響)の小さかった大須賀海岸や夏井川河口では,有意な海浜植物種数の減少や多様度指数(H')の低下がみられた。一方,インパクトの大きかった十府ヶ浦や明戸海浜では,津波後に非海浜植物種数が有意に増加した。

津波後の海浜植生の質的変化の大きさは海浜間で明確な違いがみられ,津波によるインパクトの大きい十府ヶ浦や明戸海岸と比較し,インパクトの小さい大須賀海岸や夏井川河口では,津波後の種組成の変化が相対的に小さかった。しかし,いずれの海浜においても,津波後にヘラオオバコ,オオマツヨイグサなど人為改変に耐性のある非海浜植物で特徴づけられる方向に種組成が偏向していた。

海浜植生の生態遷移の軌道や方向性を含む回復メカニズムや津波後に侵入した非海浜植物の海浜植生へのインパクトの解明に向けては,継続的かつ長期的なモニタリングが必要不可欠である。


日本生態学会