| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-236J (Poster presentation)

糞分析によるヤマネGlirulus japonicusの食性

*落合菜知香(筑波大・生物資源),門脇正史(筑波大・生命環境),玉木恵理香(筑波大・生命環境),杉山昌典(筑波大・農技セ)

ヤマネGlirulus japonicus は、齧歯目ヤマネ科に分類される小型哺乳類である。一属一種の日本固有種で、国の天然記念物、準絶滅危惧種(NT)に指定されており、希少種であるヤマネの生息環境の保全が必要である。その環境の指標の一つとして、餌資源は重要である。しかしながら、ヤマネは小型で夜行性であるためその生態調査は難しく、特に野生下のヤマネの食性に関する情報は少ない。そこで本研究では、糞分析を用いてヤマネの食性の季節変化を明らかにすることを目的とした。

本調査は長野県にある筑波大学農林技術センター川上演習林で行った。演習林内の林道・歩道沿いに164個の塩化ビニル管と木材を組み合わせた巣箱を設置し、個体の捕獲、糞の回収を行った。巣箱調査は2011年5月31日から10月12日まで、約10日間隔で計16回行った。回収した糞を60%エタノールに十分に浸してほぐし、シャーレ上に均一に広げた。10×10の格子をシャーレに設置し、その交点100点上の内容物を実体顕微鏡下(40倍)で分類した。季節的変化を検証するために、それぞれの餌項目について月ごとの出現数を比較した。

格子上の内容物は節足動物、植物質、マツ属花粉、その他花粉、種子2種類に分類することができ、その構成割合には季節変動が認められた(Χ2=199.9, df=30, P<0.005)。春にはマツ属の花粉やその他の花粉が出現したことから、樹木の花の部分を採食していることがわかった。また、6, 7月には節足動物が多く、8月から秋にかけては果実や種子などの植物質の採餌量が増えた。このように季節的な変動はみられたが、糞ごとに内容物の構成には差があった。したがって、本調査ではこの地域のヤマネにとって重要な餌資源を特定するには至らず、季節的に獲得しやすい資源が利用されていることが示された。


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