| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-052J (Poster presentation)

北方系湿性スゲ属植物における南限個体群の根呼吸応答と高温適応

*中村隆俊, 小泉優人,新田矩譜流(東農大・生物産業),中村元香(東大・理)

北日本における湿原の多くは、亜寒帯を分布域とする北方系の植物種群によって優占される。それらの種群にとって、北日本は分布南限にあたることが多く、夏期の高温に対する適応能力は、各個体群の分布に強く影響している可能性がある。

湿性植物は低酸素土壌に生育するため、根の呼吸速度は利用可能な酸素量によって常に律速される。根呼吸で得られるエネルギーは、根の成長・根の維持・窒素(N)獲得のために分配され、なかでもN獲得に対しては多くのエネルギーが配分される。一般に、温度上昇により呼吸速度は指数関数的に高まるが、その反応の主たる要因はバイオマス維持に関わるエネルギー消費の急増であるといわれている。従って、根で利用可能な酸素量が制限される湿性植物では、温度上昇による根維持エネルギーの消費急増が、特にN獲得に関する活性を強く抑制する可能性がある。このことは、温暖な地域に適応する個体群ほど、少ない酸素消費で効率的にNを獲得する必要があることを意味する。

本研究では、温度環境が異なる4カ所の湿原から採取した北方系湿性植物(ヤラメスゲ)の種子を用いて、水耕栽培による同一環境下での比較実験を行った。根呼吸速度やN獲得速度、成長速度にみられる産地間の違いについて、各個体群が分布する温度環境との関係から考察した。

35℃環境下では、根の酸素消費量(根呼吸速度)あたりのN獲得量が産地にかかわらず大幅に低下したことから、高温がN獲得にとって強いストレスとなることが示された。また、20℃環境下では、温暖な地域由来の個体ほど成長が早く、寒冷地由来の個体と同程度の酸素消費量でより多くのNを獲得できることが示された。これは、夏期の高温によってN獲得や成長に投資できるエネルギーが低下しがちな温暖地の個体群にとって、極めて適応的な振る舞いであると考えられた。


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