| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-197J (Poster presentation)

洞爺湖中島におけるシカ過密状況下の森林性鳥類群集

*玉田克巳(道総研),石下亜衣紗,吉田剛司(酪農大)

シカの増加は全国的な傾向で、農林業被害を中心に各地で大きな社会問題になっている。生態系への影響については、植生の改変については各地で報告されているが(例えば植生学会企画委員会 2011)、鳥類への影響については、奈良県大台ケ原の報告があるだけである(Hino 2000)。洞爺湖中島は、1957~1965年に島外から3頭のシカが持ち込まれ、その後個体数は爆発的に増加し、1983年にはピークに達し、ササ類をはじめとする林床植生が衰退した。1984年には群れの崩壊が起こり、個体数は半減したものの、植生の回復は見られないまま、個体数は再び増加し、現在も高い密度で推移している(梶・高橋 2006)。シカが高密度化して林床植生が衰退した森林において、鳥類相がどのような状況になっているかを明らかにするために、洞爺湖中島内と湖の外側にラインセンサスのコースを2ヶ所ずつ、合計4ヶ所設置し、2007~2010年の5~7月に5回ずつ調査を実施した。この結果、地上、草本、潅木などに営巣するコルリ、ウグイス、エゾムシクイ、アオジは、島外では普通に生息していたが、中島内ではほとんど生息していなかった。またウグイスなどに托卵するツツドリも島外には生息していたが、島内ではほとんど確認できなかった。ところが、ササ群落内などの地上に営巣するヤブサメとセンダイムシクイが、島外、島内ともに普通に生息していた。また、島外に普通に生息しているヒヨドリが中島では確認されなかった。さらに島内にはヤマゲラとオオアカゲラは普通に生息していたが、アカゲラが確認できなかった。一般的にササ群落などの林床植生に強く依存して生活するヤブサメとセンダイムシクイが中島に生息していること、林床植生とはあまり関係のないアカゲラとヒヨドリが中島に生息していないことは、林床植生が衰退したことだけでは説明することができない。今後はこれら鳥類の生活史に着目した研究が必要である。


日本生態学会