| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


シンポジウム S01-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

湖国における「田んぼ研究」の始まりとそのアウトカム

嘉田 由紀子(滋賀県知事)

琵琶湖集水域の風景として、水田は私たちに大変身近でたいへんありふれたものであるが、水田が秘める歴史は、人と自然のかかわりを考え、研究する上での重要な場を提供してきた。現実に私たちの目の前に広がる水田は、一見それぞれ分散的にみえる。しかし、それぞれの水田や水路をたどると、琵琶湖を真ん中にたたえた近江盆地が全体としてひとつの緊密に連鎖した水網システムであることがみえてくるだろう。それはいいかえたら、水と生き物と人とが相互に依存しあいながら“生きる場”である<生命文化複合体>ともいえるものである。その中で成立してきた水田生態系は人為的な環境下ではあるが、私たちに馴染みの深い身近な生き物(トンボ、ホタル、フナ、ドジョウ、タニシ等)を育んできた。また、一方では水田生産に特有な水や自然とのかかわりを支える社会組織や生活文化を発達させてきた。その意味と価値を、地域に生活し、地域行政に携わる人たちとともに内在的にさぐり、その保全への志をもとめることが、1996年琵琶湖博物館の開館時に立ち上げた「水田生態系と人間活動に関する総合研究」であった。

あれから16年が経過しようとしている。当初全国的にも珍しかったこの研究アプローチはいわゆる「湖国の田んぼ研究」として根を張り、現在様々な分野に広がるまでに至った。そしてその中で少しずつ得られてきた成果は、「魚のゆりかご水田プロジェクト」をはじめとした滋賀県の施策としても活用されるようになった。この間、全国各地でも水田をテーマとした生態学、そしてそれをとりまく各分野の研究が増加している。そこで改めて「田んぼ研究先進県」として、これからの「湖国の田んぼ研究」についてその意義とこれからの展望・期待について研究者として、また政策責任者としてコメントしたい。


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