| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


シンポジウム S01-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

水田利用魚類を媒介として田んぼと湖の関係を探る

前畑 政善(神戸学院大・人文)

ニゴロブナを媒介として、湖辺の水田地帯で生物と人とが織りなす関係性を明らかにしようとした。ニゴロブナは琵琶湖の固有亜種で、しばしば水田で繁殖し、人の暮らしと深くかかわってきた。

琵琶湖周囲の農村では、魚が水田に遡上し繁殖できるようにする「魚のゆりかご水田」事業が進められている。農家はゆりかご水田に取り組む理由として「環境へのよさ」や「農業上の効果」を挙げることが多い。その背景には、集落機能が維持されていることによる合意形成の容易さ、日常的な水路の管理などの協働、そして水田地帯に遡上してきた魚を捕って食べた共通の記憶があることが示唆された。

ニゴロブナの水田地帯への遡上は、5月、琵琶湖の水位が前日より上昇した日に多く見られた。水田への遡上の際、溶存酸素濃度が低い支線排水路を選ない傾向が認められた。流水中ではほぼ繁殖できないことも明らかになり、水田地帯での繁殖では水田への遡上が重要であることを裏付けた。

水田でニゴロブナは極めて速い初期成長を示したが、仔魚期後期にミジンコを食い尽すと早くも成長の遅滞が認められた。稚魚期に底生動物を捕食できるようになると成長速度は一旦回復したが、その後再び鈍った。ミジンコが仔稚魚の捕食によって著しく減少すると、ミジンコに捕食される小型の原生動物、微細藻類、糸状細菌などが量的に著しく増加し、分類群数の増加も認められた。

ニゴロブナ稚魚・幼魚は、用水路と排水路の双方に自由に出ていける水田では、用水側へと徐々に脱出した。バルブ給水の水田からは中干し時に排水口から脱出したが、この際に多くの個体が水田に取り残されて死滅した。

本研究で、ニゴロブナから見た琵琶湖辺の水田の現状と問題点が明らかになった。また、ニゴロブナを手掛かりに水田をめぐる様々な関係性の糸を手繰り寄せることにもある程度成功した。しかし成果は単発的で、生物と人の関係性が織りなす網の全貌は未だ見えない。


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