| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


シンポジウム S03-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

日本列島弧の生物多様性と原子力発電所——未来への希望と負の遺産

加藤真(京大院・人間環境)

太平洋の西端に南北に連なる日本列島弧は、陸も川も海も、世界でもまれに見る、豊かな自然と高い生物多様性を付与されてきた。しかしその背景には、4つのプレートの活動がもたらす大規模な地殻変動があり、地震、火山噴火、津波といった大地の鼓動と隣り合わせでもあった。そして3月11日に起こった東北地方太平洋沖大地震は、福島原発の炉心溶融事故を引き起こし、列島に深刻な放射能汚染をもたらすことになった。

プレートの活動と地殻変動は、日本列島に特徴的な自然を作り出した。急傾斜のままで海まで流れ下る川、滝の連続する渓流、玉砂利が敷きつめられた中流、地下伏流水の多い礫質の河口、玉砂利の礫浜などである。このような特殊なミクロハビタットでは、日本列島独自の生物の多様化が起こった。コバネガ類、シブキツボ類、ムカシゲンゴロウ類、ミミズハゼ類などの適応放散は、日本列島の出自と深くかかわっている。

下北半島には下北半島湖沼群と呼ばれる潟が続いている。塩性湿地には、この周辺地域固有種のヒメキンポウゲが、近くの海食崖にはこの地域固有属のハマギクが分布する。しかし現在、下北半島には、原発や核燃料再処理工場、放射性廃棄物貯蔵施設などの核関連の施設が集中している。下北半島での揺れがそれほど大きくなかったことは不幸中の幸いであった。

日本の生物多様性は、世界に誇るかけがえのない資源であり、賢明に利用すれば永遠に幸と富をもたらす希望である。原子力発電は「安全でクリーンで経済的」であるはずがなく、原発震災の危険を常にはらみつつ、放射性物質による汚染を子孫に残す負の遺産である。破局的な原発震災の危機から日本が脱するために、可能な限り早く、原発推進の国策を転換し、核燃料サイクルを放棄し、すべての原発を看取るべきだろう。


日本生態学会