| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


シンポジウム S04-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

大量絶滅の引き金になった食物連鎖の崩壊

後藤和久(千葉工大・惑星探査)

今から約6550万年前の白亜紀末に,生物の大量絶滅が起きた.この絶滅は,海生動物の種のレベルの絶滅率が70~80%と地球史上でも有数規模である.絶滅の原因として,直径10kmの小惑星衝突が引き金となり,その後に生じた数々の環境変動が考えられる.しかし,実際にどのようなプロセスで大量絶滅に至ったのかは,まだ解決されていない問題が多々あり,実はよくわかっていない.地質記録や微化石の研究からは,衝突直後に被子植物の花粉化石が出現しなくなり,代わりにシダ植物の胞子が急増することがわかっている.また,衝突地点から遠く離れたニュージーランドでは,シダ類が繁殖するさらにその前に,キノコ類や菌類の胞子が大量に見つかっている.そのため,衝突直後に光合成生物の活動が一時的に停止し,最初の数ヶ月から数年の間だけ,光合成を必要としない菌類などが繁殖したと考えられる.海洋においても,当時大繁栄していた石灰質ナノプランクトンの種の約93%が,衝突直後に大量絶滅している.その一方で,陸上でも海洋でも腐食連鎖に属する生物の絶滅率が低く,さらに酸に対する耐性が強い生物も絶滅率が低い.こうした特徴を総合すると,衝突に伴い大気中に塵,煤,硫酸エアロゾルなどが大量に放出され,数ヶ月~数年間にわたって日射を遮断したことにより,食物連鎖の基底をなす光合成生物が死滅し,その結果,食物連鎖が崩壊したことが大量絶滅の主因だった可能性が考えられる.さらに,地表面温度にして約260度に達したといわれる輻射熱の影響が衝突直後から最大数時間続き,その後長期にわたる硫酸・硝酸の酸性雨の影響などによって,選択的な大量絶滅が引き起こされたものと考えられる.しかし,当時の光合成生物はどの程度の期間だけ太陽光を遮断されれば死滅したのかなど未解決の問題も多く,今後は古生物学的,生態学的な検討が必要となる.


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