| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


シンポジウム S04-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

天体衝突が引き起こす環境変動と大量絶滅

大野宗祐(千葉工大・惑星探査)

6550万年前のK/Pg境界での大量絶滅がメキシコ/ユカタン半島のチチュルブクレーターを作った衝突が原因であることは、広く認められるところとなっている。しかしながら、チチュルブ衝突がどのような環境変動を引き起こし大量絶滅がどのように起こったのか、その具体的なメカニズムは未解明のままであり、K/Pg境界のこれから研究されるべき最も重要なテーマである。本講演では、現在提案されている主な環境変動のメカニズムをレビューし、その長所や問題点を概説する。

1980年、アルバレスらにより、はじめてK/Pg境界での大量絶滅の天体衝突原因説が提唱された際に考えられていた環境変動のメカニズムは、衝突により巻き上げられた塵による日射遮蔽・光合成の停止であった。しかしその後、長期間にわたり大気中に留まることの出来る小さいサイズの塵の量は非常に少なく、ほとんどの塵が非常に短期間に落下してしまうことが分かってきた。そのため、現在までに塵による日射遮蔽・光合成の停止以外にも様々な環境変動のメカニズムと絶滅機構の仮説が提案されてきた。

まず、塵以外の物質での太陽光遮断仮説があげられる。K/Pg境界層からは煤が見つかっており、これによる日射遮蔽が起こった可能性がある。衝突時に生成した硫黄酸化物から硫酸エアロゾルが形成され、これも日射遮蔽の原因として有力視されている。また、その硫黄酸化物は酸性雨の原因となる。衝突時には二酸化炭素も放出されたと考えられ、温室効果による温度上昇が起こった可能性もある。

しかし、これらの仮説もそれぞれ大量絶滅を引き起こすに足るほどの生態系へのダメージを与えたかどうかは疑問が多く残っているというのが実情である。提案されている絶滅機構はどれも決定打に欠け、今後の研究とメカニズム解明が必要である。


日本生態学会