| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


シンポジウム S04-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

地球化学から予想される大量絶滅プロセス

丸岡照幸(筑波大・院・生命環境)

「地球化学」とは,特定の元素や元素群の濃度,それらの化学種組成(無機物の場合にはその元素の価数,どんな元素が隣にあるのか,どんな鉱物なのかなど,有機物の場合には分子組成など),同位体比組成といった化学的な指標を用いて,地球で起きた,もしくは起こっている現象を理解する学問分野である.物質から化学的な情報を引き出すことで,その物質の生成当時の環境を読み取ることが「地球化学」の目的である.Alvarez et al. (1980)による白亜紀-古第三紀(K-Pg)境界層におけるイリジウム濃縮の発見,さらにはその解釈としての隕石衝突仮説の提唱はまさに「地球化学」の成果だといえる.本講演では堆積岩から地球化学的手法を用いて読み取ったK-Pg境界における環境変動をレビューし,そこから大量絶滅を引き起こしたプロセスに関してどのような制約を加えることができるのかを論じたい.海洋環境については,浮遊性有孔虫,底棲有孔虫の炭素同位体比を比較することで得られる光合成による有機物生成量の変位,有孔虫の酸素同位体比から得られる古気温の変位に関して議論する.また,最近の我々の成果である硫化鉱物の粒子ごとの元素組成をもとにした海水化学組成の変化に関しても紹介する.淡水環境については正確に「時」を刻む物質はまれであり,衝突前後の環境を正確に比較することのできる物質を得るのは非常に困難である.しかし,K-Pg境界に対応する粘土層は淡水環境下でも生成されており,その前後とは異なる化学環境で生成されたことは理解されている.特に,酸性雨の証拠となる硫化鉱物の濃集や生態系の活発化を示す同位体比異常が境界層に見出されてきているので,それらに関して議論したい.


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