| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) B1-02 (Oral presentation)

環境DNAを用いた魚類の在不在判定による遡河行動のモニタリング

*山中裕樹(龍谷大), 源利文(神戸大)

ここ数年、魚類などの大型水棲動物を対象として、環境水中に浮遊するDNA断片(環境DNA)の回収・分析による生物相の推定技術が急激に発展してきた。従来から行われている採捕や観察といった手法では調査者の採捕技術や努力量の違いによる推定のバラツキがあり、その補正が困難である。一方で環境DNAによる推定では調査現場での作業は水を汲む事だけであり、調査におけるバラツキが小さいと考えられ、しかも小さな労力で実施できる手法として注目されている。

本研究ではダム等の河川横断構造物が魚類の河川内移動に与える影響のモニタリングに環境DNA技術を応用することを目指し、その可能性を示すべく淀川水系を対象として調査を実施した。琵琶湖南端から大阪湾に至る約70kmの区間で計15地点、7月から10月まで毎月1回の採水を行った。対象区間には上流から南郷洗堰(魚道無し)、天ケ瀬ダム(無し)、淀川大堰(有り)の3つの河川横断構造物があり、魚類の河川内移動への影響が考えられた。対象種は海域と河川域とを回遊するアユ、ボラ、スズキの3種で、ミトコンドリアのチトクロームb遺伝子領域をターゲットとする種特異的なプライマーを設計し、種ごとの在不在の季節的な変化をリアルタイムPCRによって分析した。

結果、ボラとスズキは淀川大堰の下流地点で8月にのみ検出された。また、アユは7月に南郷洗堰と天ケ瀬ダムの下流地点で、8月には天ケ瀬ダム下流地点とダム湖内で、そして9月には天ケ瀬ダムから約10km下流の地点で検出された。近接した地点でも検出の有無に違いがあることから、環境水中のDNAが一方向に流れて拡散する流水環境においても、環境DNAによって検出される種は採水地付近の魚類相を反映していると考えられた。これらの結果をもとに、環境DNAによる魚類行動のモニタリング方法を確立することの有用性と、考慮せねばならない問題点について考察する。


日本生態学会