| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) C2-22 (Oral presentation)

逆方向性転換の進化条件:低密度仮説の検証

*桑村哲生(中京大国際教養)・鈴木祥平(琉球大亜熱帯島嶼科学)・門田立(水研セ西海水研)

魚類における性転換の進化は、配偶システムのタイプに応じて決まることが理論的に予測されてきた。たとえば一夫多妻では、雌から雄への性転換(雌性先熟)が進化すると予測され、その際、グループ内の最大・最優位個体のみが雄に性転換するケースが多いことも知られている。しかし最近になって、これまで雌性先熟とされてきた一夫多妻のサンゴ礁魚類(ホンソメワケベラなど)において、雄から雌へ逆方向に性転換することが、水槽内2雄同居実験および野外雄独身化実験により確かめられた。独身にした雄が自分より大きい雄と出会い、社会的劣位になったときに逆方向性転換したのである。一夫多妻魚の自然個体群で、雄が配偶者を失って独身になりやすいのは、低密度条件においてであり、逆方向性転換はそのような状況において自然選択されてきた繁殖戦術だと考えられる(低密度仮説)。

この仮説を検証するため、ホンソメワケベラを対象とした野外実験を実施した。沖縄県瀬底島のサンゴ礁で約100m×250mの調査域にいた全ハレムを捕獲し、うち半分では雌をすべて除去して雄を独身にし、残り半分では最大雌以外の雌を除去してペアにした。すなわち、独身雄が移動すれば、他の独身雄とも、ペアの雌雄とも出会う可能性があるという、低密度個体群で起こりやすい状況を作り出し、独身雄を追跡して移動と配偶者再獲得戦術を観察した。その結果、独身雄は、(1)他の雄、雌または幼魚の加入があれば、移動せずにそれらとペアになった。(2)移動した場合は、もっとも近くにいた独身個体とペアになった(より近くにペアがいてもそれには合流しなかった)。そしていずれの場合も、(3)雄同士のペアになった場合にのみ、小さい方が雌に性転換した。以上により、逆方向性転換は低密度条件で配偶者を消失した際の配偶者再獲得戦術のうちの1つであることが示唆された。


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