| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) D1-10 (Oral presentation)

エゾタンポポの謎:なぜセイヨウタンポポに駆逐されるのか?

*西田隆義(滋賀県立大),橋本佳祐,西田佐知子,金岡雅浩(名大),小玉愛子(苫小牧市博),高倉耕一(大阪市立環境研)

われわれはこれまで、外来タンポポからの花粉干渉を受けるか受けないかが、在来タンポポの盛衰を決めることを実証してきた。これまで扱ってきた在来タンポポは、いずれも有性生殖種であり、外来タンポポから花粉干渉を受けることは理解できる。しかし、在来のエゾタンポポは無性生殖であり、花粉媒介は本来必要ないはずである。それにもかかわらず、エゾタンポポは在来タンポポの中でも圧倒的に劣勢で、北海道では外来タンポポに駆逐されて、ほとんどの地域で絶滅状態になっている。エゾタンポポが絶滅したと推定される地域では、エゾタンポポと外来タンポポの雑種が痕跡的に見つかる。これらの結果は、エゾタンポポが花粉干渉を受けほとんど絶滅したが、雑種が一部残存したという仮説で説明できる。そこで、この仮説について検証した。

苫小牧市近郊にわずかに残存するエゾタンポポ自生地において、1)周囲の外来タンポポの割合が増えると、エゾタンポポの結実率は低下するか、2)外来・在来タンポポの花粉を混ぜて人工授粉させると、エゾタンポポの結実率は低下するか、3)エゾタンポポの柱頭において外来タンポポの花粉管は胚まで伸長するか、について調べた。その結果、いずれについても、外来タンポポの花粉干渉を否定する結果となった。

この一見、予想外の結果については、以下のように考えることができる。エゾタンポポのほとんどは外来タンポポから花粉干渉を受け、ほとんど絶滅してしまった。しかし、花粉干渉を受けないタイプも少数存在し、現在残っているのはほとんどがそのタイプである。したがって、現時点で調査するとエゾタンポポは花粉干渉を受けないという結果になる。この推論は、花粉干渉においても“過去の亡霊”が出現し、適切な除霊が必要なことを示唆している。


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