| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) D2-13 (Oral presentation)

捕食者存在下における適応的ランダム探索戦略

*阿部真人, 嶋田正和 (東大・広域システム)

古くから動物の探索行動パターンは単純なランダムウォークではなくその合間に低頻度で直線に近い運動が挿入されるという報告がある。近年、それがランダム探索戦略の一つであるLévy walkのパターンであることが主張されている。Viswanathan et al.(1999)は数理モデルを用いてLévy walkが目標物の位置情報がない状況下で探索効率を増加させることを示し、適応の観点からLévy walkのパターンを説明した。しかし、実証研究においては実際の動物がLévy walkを示さない可能性を示唆するなど議論が分かれているのが現状である。その原因の一つに実データに対する解析手法が確立していないことが挙げられるが、他の要因として探索効率そのものを適応度に換算する点に問題があることも考えられる。Lévy walkは対象物が何であるかに関わらず遭遇率を高めるため、採餌だけのベネフィットだけでなく天敵による捕食リスクといったコストの両面を考える必要があるが、先行研究ではそれが考慮されていない。

本研究では、従来のLévy walkの探索効率のみに焦点をあてた目標物-探索者のシミュレーションに捕食者を導入し、捕食者存在下における最適なランダム探索戦略について解析した。さらに捕食者も探索行動することを想定し、その場合の最適なランダム探索戦略を調べた。その結果、捕食者密度が高い状況下ではLévy walkよりもランダムウォークの方が適することが明らかになった。また、探索者が目標物を発見することが適応度増加に直結するかどうかといった生活史の影響の解析した。これらの結果から、探索者の生活史や捕食者の行動によって決定される最適なランダム探索戦略について議論し、今後の実データ解析との関連も述べる。


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