| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-16 (Oral presentation)

行動形質における進化的キャパシターの探索:HSP90の遺伝変異緩衝効果の測定

*辻野昌広(岡山大・RCIS),吉井大志(岡山大・理),高橋一男(岡山大・RCIS)

進化的キャパシターとは、遺伝的な変異が表現型に与える影響を緩衝することで、集団中に遺伝的変異を維持し、それを一度に顕在化し自然淘汰に曝す事で、迅速な進化を促進する機能を持つ概念的な機構である。

進化的キャパシターの候補となる分子の一つに、分子シャペロンの一つであるHSP90が挙げられる。先行研究により、HSP90の機能阻害が、形態形質における遺伝的変異を増大させる例が知られており、HSP90が形態形質の遺伝変異を緩衝する機能を持つ可能性が示唆されている。近年の研究により、HSP90の機能阻害が行動形質の環境変異を増大させる効果を持つことが観察されており、このことはHSP90が行動形質の遺伝変異にも影響する可能性を示唆している。

本研究では、HSP90が行動形質の遺伝変異の緩衝機能を持つかどうかを検証するため、キイロショウジョウバエを材料として、Hsp90の発現抑制およびHSP90の機能阻害が歩行活動の遺伝変異に与える影響を測定した。

HSP90阻害の効果を検証するための遺伝変異としては、人為的に導入されたゲノム欠失に基づいた遺伝的変異と、野生型系統間の自然遺伝変異の2つを用いた。Hsp90の発現抑制には、RNA干渉法を用い、HSP90の機能阻害には抗生物質であるゲルダナマイシンを用いた。歩行活動は、恒温恒暗条件下でアクトグラフにより記録した。キイロショウジョウバエは概日リズムを持ち、自然環境下では1日2回(日の出前後と日没前後)活動活性が高くなることが知られている。そこで行動形質の指標として、歩行活動の概日周期と活動活性が高まる時間帯における行動的反応(活動ピークの高さと尖度)を用いた。これらの実験の結果より、HSP90が行動形質の進化的キャパシターとして機能しうるかどうかを論じたい。


日本生態学会