| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-18 (Oral presentation)

アリによるアブラムシへの「目印」とアブラムシによるアリへの化学擬態

*遠藤真太郎(信州大院・総工), 市野隆雄(信州大・理)

アブラムシとアリは相利共生関係の例として有名であるが、アリは時に共生アブラムシを捕食してしまうことも知られている。この現象は、アリによるアブラムシのまびきや、タンパク餌の補充など、アリコロニー内の栄養の需給バランスの変化によって発生すると考えられてきた。しかし、アリは多数の個体からなるコロニーで捕食活動を行うが、アブラムシに随伴するか捕食するかという判断を個々のアリワーカーがどのように下しているのかという至近要因は明らかになっていなかった。

これについて、Sakata (1994)は、アリがアブラムシに何らかの目印を付けることで、アブラムシを選択的に捕食していることを状況証拠から示唆した。本研究では、アリの巣仲間認識物質である体表炭化水素(CHC)がこの目印物質である、という仮説を立て、検証を行った。

クロクサアリ随伴環境で飼育し、新しく産まれたヤノクチナガオオアブラムシ1齢幼虫の体表には、アリのCHCが付着していた。また、このアブラムシやアブラムシ体表から抽出したCHCを塗布したダミーに対して、アリは捕食や攻撃しにくかった。このことから、アリは随伴したアブラムシに対して自らのCHCで目印を付け、そのCHCが巣仲間による捕食を抑制することで、あまり甘露を提供しないアブラムシを選択的に捕食していることが明らかになった。

一方で、ヤノクチナガオオアブラムシもアリの捕食に対して対抗進化している可能性がある。各齢期のアブラムシをアリ非随伴環境で飼育し、脱皮した個体のCHCを分析した。その結果、3齢以上のアブラムシではアリによく似た組成のCHCを自ら生合成していることが明らかになった。これは、アリの目印を自ら作ることで捕食を回避する化学擬態だと考えられる。


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