| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) H1-11 (Oral presentation)

最適リアクションノルム: 環境変動は必ずしも表現型可塑性を促進しない

*山内淳(京大・生態研センター), 高橋大輔(京大・生態研センター)

同一の遺伝子型から環境に応じて異なる表現型が作り出されることを表現型可塑性といい、環境状態に対するその表現型の関数形をリアクションノルム(反応規範)と呼ぶ。また特に、その反応が生物にとって有利な場合を適応的な表現型可塑性といい、その進化はいくつかのタイプの理論モデルによって解析されている。一つのタイプは、環境状態が予測不可能で、なおかつ異なる環境への適応にトレードオフが存在することを仮定したモデルである。別のタイプのモデルは量的遺伝モデルによるもので、それは異なる環境での表現型が多面発現の効果やリアクションノルムの連続性よって相互に制約されることを考慮している。これらのモデルは「表現型に可塑的を持たせること、それ自体にともなうコスト」を考慮していなかった。そこで、「可塑性を持つことのコスト」を取り入れた最適化モデルを定式化して解析を行った。モデルではベースとなる形質値を作り出すことと、さらにそこから環境に応じて形質値を変化させることにそれぞれ異なるコストが伴うと考えた。また、形質の可塑的な変化に伴うコストには、ベースからの変化量そのものに応じたコストがかかる場合と、類似した環境の間で形質を変えることでコストが生じる場合を仮定した。適応的な表現可塑性は変動環境に対する適応であり、直感的には環境変動が大きい方がその進化が促進されると考えられる。しかしながら本モデルの解析により、その予測は必ずしも正しくないことが示された。環境変動が小さい場合には稀な環境への対応をあきらめることでかえって表現型の変化が大きくなる一方で、環境変動が大きくなると様々な環境にまんべんなく対応しなければならないためにベースライン自体を高めて可塑性を小さくする場合がある。その結果として、状況によっては環境変動の増大により表現可塑性の進化が抑制されることも起こりうる。


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