| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) H2-16 (Oral presentation)

拡大造林による樹種改変とその大気環境影響

*松永壮(北大苫小牧),中塚誠次(NTTデータCCS),佐伯いく代(北大苫小牧,自然研),日浦勉(北大苫小牧)

大気は気候と密接な関係にあり、両者は表裏一体といっても過言ではない。気候の温暖や寒冷は大気温の高低そのものであるし、降水や雲は大気中に含まれる水の存在量や状態を反映したものである。つまり、大気は気候を介して森林に大きな影響を与えている。しかしそれだけではなく、森林もまた大気へ影響を与えているのである。その代表的なものは、1960年代に研究が始まった生物起源有機ガス(Biogenic Volatile Organic Compound: BVOC)である。BVOCは主に森林樹木の葉から放出される有機ガスで、大気中で起こっている様々な化学反応を経て気候の温暖化や寒冷化に深く関わっていると考えられている。BVOCには様々な種類があり、それぞれ異なる気候影響を持っている。また、BVOCの放出には高い樹種依存性があり、その放出量や種類は樹種によってかなり異なっていることが分かっている。つまり、森林に生育する樹種が変わったとき、BVOCを介した森林による大気(気候)への影響も大きく変化することが推測される。日本国内では、終戦後の1940年代後半からスギやヒノキの人工林が多く造林され、既存のミズナラやコナラ、常緑広葉樹と入れ替えられた。現在では国内森林の葉重量のうち40%以上をスギとヒノキが占めている。スギやヒノキが放出するBVOCはミズナラやコナラおよび常緑広葉樹など既存の樹種が放出するそれとは、その放出量と種類いずれにおいても大きく異なることが分かってきた。本研究では、森林簿や生物多様性システムを基に推定した現在のBVOC放出と、潜在自然植生などを基に推定した拡大造林以前のBVOC放出を比較し、人間活動による大規模な森林への改変が大気環境にどのような変化をもたらしたのか、定性的な推定を行う。


日本生態学会